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腰椎椎間板ヘルニア手術後に後悔しないために知っておくべき7つのリスク要因
【術後に後悔しないために:腰椎椎間板ヘルニア手術の落とし穴】
腰椎椎間板ヘルニアは、日常生活に支障をきたすほどの強い腰痛や下肢のしびれを引き起こすことがあります。保存療法で効果が得られない場合、手術が選択されますが、多くの患者さんは痛みから解放されますが、全員が満足できる結果になるとは限りません。最新の研究では、手術前のある特徴が、術後の経過に大きく影響することが明らかになりました。
本記事では、フィンランドの全国脊椎手術データベースを基にした研究をもとに、腰椎椎間板ヘルニア手術後の経過が芳しくない患者に共通する要因を解説します。
【1. 手術の結果に影響する7つのリスク要因】
この研究では、2017年から2022年にかけて腰椎椎間板ヘルニアに対して手術(椎間板摘出術)を受けた3,339人のデータを解析しました。手術から1年後の障害の程度を「Oswestry Disability Index(ODI)」という評価法で調査し、軽度〜中等度の障害を「良好」、重度の障害を「不良」と分類しました。
その結果、約10%の患者が手術後も重度の障害を抱えていることが判明しました。そして、以下の7つの要因が術後経過不良と関連していることが明らかになりました。
- 高齢:年齢が高いほど回復が悪くなる傾向があります。
- 女性であること:男性よりも女性の方が術後に不調を訴えるケースが多く見られました。
- BMI(体格指数)が高い:太り気味の方は、手術後の回復に悪影響を受けやすいです。
- 心臓疾患などの持病:特に心臓の病気がある人は、他の患者に比べて回復が遅くなりやすいです。
- 痛み止めを常用している:手術前から痛み止めを使っている方は、慢性痛の傾向があり、手術の効果が出にくい可能性があります。
- 症状が長引いている(1年以上):手術のタイミングが遅れると、回復の見込みが下がることがわかりました。
- 複数の椎間での手術:手術部位が多いと、それだけ術後のリスクが増えるようです。
【2. 就業状況と生活の質が手術の成功を左右する】
さらに、この研究では、手術後の満足度や再手術の有無、全身の痛みについても調査が行われました。特に注目すべきは、就業状況が術後の成績に強く関係していた点です。
仕事をしている人は、術後の結果が良好な傾向がありました。一方で、年金生活者、失業者、障害者手帳を持っている方は、回復が思わしくない傾向にありました。これは、生活のリズムや身体活動量、精神的な健康状態が影響している可能性があります。
また、手術後も肩や腕に痛みを訴える方は、腰椎椎間板ヘルニア以外の原因が隠れていることが多く、腰の手術では根本的な改善につながらないこともあると考えられます。
【3. 術前評価と患者指導の重要性】
本研究の最大の意義は、「誰が手術の恩恵を受けやすいのか」「誰にとっては別の治療法の方が適しているか」を見極める手がかりを提供している点です。
特に重要なのは、以下の点です:
- 高齢者や持病のある方、症状が長引いている方は、手術による改善が限定的になる可能性があるため、慎重な判断が必要です。
- BMIが高い方には、体重を減らすことで術後の経過を良くできる可能性があります。
- 慢性的に痛み止めを使用している方は、手術前に痛みの原因を再評価することが勧められます。
こうした情報を基に、術前のカウンセリングを丁寧に行い、患者さん自身が「この手術を受けるべきか」「他の治療法を選ぶべきか」を冷静に判断できるよう支援することが、整形外科医にとっての重要な役割となります。
【まとめ】
腰椎椎間板ヘルニアの手術は、多くの患者にとって痛みからの解放をもたらしますが、すべての人に同じ効果があるわけではありません。
今回紹介した研究からは、年齢や体型、既往歴、症状の持続期間、就業状況といったさまざまな要素が、術後の結果に影響を与えることが明らかになりました。
これらの情報を基に、医師と患者が共に最善の治療方針を選ぶための材料として活用できるよう、今後も患者さんにもわかりやすい医療情報の発信を心がけてまいります。
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【参考論文】
Saarinen A, Suominen E, Pekkanen L, et al. Preoperative Predictors of Poor Outcomes Following Lumbar Discectomy: A Study Based on the National Finspine Registry. Spine. 2025. doi:10.1097/BRS.0000000000005425
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